(左から)星野友利氏とレティシア・ララルド氏
2020年3月23日(月)、日本画家・星野友利氏の自宅アトリエに、フランスから一人の女性が訪れました。
彼女の名前はレティシア・ララルド(Laetitia Larralde)。フランス国内外のトレンド・カルチャー情報を取り扱うWEBメディア「Toute La Culture」の編集者であり、イラスト、漫画、版画など幅広いジャンルの作品制作を行うアーティストとしても知られる人物です。
このたび、日本文化にも造詣の深いレティシア氏から「日本人アーティストの制作現場に立ち会い、その核心に迫りたい」とのリクエストを受け、星野氏への取材が実現しました。
星野氏は、日本画家としてこれまでに数多くの作品を制作し、フランス、UAEなどジャパンプロモーションが展開する個展やアートフェアにも精力的に参画。各国での販売実績を含め、多くの成果を残しています。
鎌倉にある自身のアトリエでレティシア氏を迎えた星野氏。当日の様子を書いたレティシア氏のブログから、二人のアートに対する真摯な思いをぜひご体感ください。
星野友利氏は日本画のアーティストです。このたび彼のアトリエでインタビューをする機会を得て、アートと自然と精神性の関係について話を聞くことができました。
星野友利氏のアトリエにて
鎌倉の少し高い土地、草木に囲まれたところに星野友利氏のアトリエは開かれています。
豊かな自然で視界はいっぱいになります。ここで生み出される作品に、自然のものが描かれるのは当然のことと言えるかもしれません。自然を主題とした作品は珍しくはありませんが、星野氏は自然を主題としてだけでなく、彼の制作過程や創造性においても欠かせない存在としています。星野氏は日本の伝統的な絵画、日本画の画家であり、神道を信じる者なのです。
「日本画」という言葉は、日本の伝統的な画材を用いた技術や方法で描かれる作品を指すものとして19世紀の終わりに登場しました。反対に、西洋のスタイルを採るものは「洋画」と呼ばれています。その後、日本画の画家達は、伝統に固執することなく、何世紀も前からある日本の技術に西洋のプロセスも取り入れるようになりました。
私はここに明治時代らしい考え方があると思いました。日本の精神性を守りながら、西洋の原理に従って現代化していったのです。
このアートの流れは現在の日本画が出来るまでの流れとしてよく知られていますが、実はその何世紀も前から存在していたものがあります。それが「大和絵」です。ここに星野氏の目指す世界があります。
また、もうひとつ別の流れとして、8世紀ごろ日本では中国の絵画が研究されていました。当時の日本の画家達は中国から来た技術に日本の主題を組み合わせて、新しい日本の典型を作り出しました。この時代に作られたものは非常に洗練されており、今でも高く評価されています。
大和絵の伝統的なテーマとして、「自然と季節」は非常に重要なものと位置づけられ、絵に使用する材料にも強い影響を及ぼしています。
星野氏の作品は、豊かな葉や枝、細部にまでミネラルに満ちた自然の様子を描き尽くしたいという思いから、4つの屏風を使用するほど大きなサイズになることもあるのだそう。また4年前に制作を始めた作品もあるといいます。アーティストのクリエイティブなプロセスが感じられます。
制作に使用する屏風を披露する星野氏
星野氏はインタビューの中で、画材の準備のデモンストレーションをしてくれました。彼は鉱物や植物、昆虫や貝などから出来た顔料の小袋が並んでいる棚に向かい、孔雀石から作られる緑の顔料を選びました。
それらを絵に付着させるため、膠という動物性の接着剤と水を加え、指で、水彩絵の具のような薄さになるまで混ぜます。そして、日本の伝統的な紙である和紙に塗っていきます。和紙は植物でできた布のようなもので、ここでは三椏という低木を材料としていました。
作品の風合いの決め手となる顔料
星野氏は制作に長い時間を要します。塗料を敢えて均一に付けないために、作品に使う用紙をくしゃくしゃにし、モチーフの輪郭に墨を塗り、そして色を入れていきます。透明なレイヤーを重ねながら、良い色のバランスになるまで進めていきます。各レイヤーの乾燥には数週間かかるので、制作はゆったりとしたペースで進んでいきます。
星野氏による制作工程の細やかな解説にその場の全員が聞き入った
星野氏と自然の絆はとても深いものです。彼は神道の教えに従います。神道は日本に起源があり、自然の力を崇拝するものです。各地域には守り神がいると考えられており、人間と自然と神の調和を保つために神を讃えるのだといいます。
星野氏によるデッサン。ここから長い時間をかけて色を入れていく
大和絵の精神のひとつに、季節の流れと共に再生を続ける自然のサイクルの中にある、生まれ変わりの美しさ、繰り返される生命に宿る活力の美があります。彼の筆により、アート、自然、神が関わり合っているのを感じます。
葛飾北斎が「天我をして五年の命を保たしめば 真正の画工となるを得うべし」と言ったように、星野氏も同じく、永遠に上達を志す謙虚さを持った方です。いつか彼が「自然をそのままに描く」という目標を叶えることを私は祈っています。自然の精神を表現する完璧な伝達者となり、いつしか彼は自分自身のゴールへ到達するでしょう。
(2020.6.15 レティシア・ララルド)
※インタビューの原文(フランス語)は、「Toute La Culture」オフィシャルブログに掲載されています。
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