「パリ 秋の日本現代美術展」の幕開けは2015年11月18日、奇しくもパリ同時多発テロ事件の発生から、わずか5日後のことです。会場のエチエンヌ・ドゥ・コーザン・ギャラリーが位置するサンジェルマン・デ・プレ界隈も、夜間外出禁止令が続く厳戒態勢でした。それでも日本からやってきた作品を一目見ようと、溢れんばかりの日本ファンが会場に詰めかけ、ギャラリーは一種独特のムードに包まれました。
アートは、この非常事態にも大きな力を発揮しました。
テロの被害者の方々に向けてレクイエムを捧げたのは、和楽シンガーソングライターのエコツミさん。会場中がその熱唱に息を呑んで静まり返り、そのあと割れんばかりの拍手が沸き起こりました。そして、さまざまなジャンルのジャパンアーティストたちによる作品に、深い感動の声が数多く寄せられました。日本美術ならではの「癒し」「和み」「潤い」「対話」といったアプローチが、厳しい緊張感にさいなまれ続けるパリの、心のオアシスとなりえたのかもしれません。
「このような苦境のときに駆けつけ、パリ市民を励ましてくれた、この友情を忘れない」――これは、ある来場者の言葉です。アートを介し言語を越えた人間同士の対話に、真の日仏交流の姿を見ることができました。ギャラリストのエチエンヌ氏も、いつも以上に饒舌に作品を語り、素晴らしい夜となりました。