先日、上野の森美術館(東京都)にて開催された「THE WORLD OF UKIYO-E」。コンセプトは、現代と、浮世絵に描かれた世界をつなぐインターフェイス空間。現代アートによって時代を超えて存在する普遍的な感性が浮き上がり、隔絶された現在の生活と江戸の文化の間を来場者が自由に行き来する空間となりました。
4月に開催された「THE WORLD OF UKIYO-E」 北斎の絵手本モチーフより
多くの木版実物作品や趣向を凝らしたインスタレーションが展示された本展覧会。鑑賞だけでなく「体感」する本展示は、空間全体に流れる、古人からの想いと今を生きる私たちの感性とが融合した世界観を来場者に強く意識させました。
白紙の和紙に次々と描かれる絵、動画で全体の様子をご覧ください
和紙、墨、映像で表現された、北斎の仕事場の直感的イメージ。思いつくままに絵を描いて暮らした北斎。ちょうどこれから描く白紙の和紙にプロジェクションマッピングを用いて絵を描いていきます。来場者はベンチに座り、描かれていく絵によって四季が一巡するのを興味深く眺めていました。この展示を形にしたアーティストたちも、時代は違えど同じ芸術家として、北斎に尊敬や親しみを感じています。また、北斎が詳細に描いた当時の日常に登場するものたちは、膨大な時間の経過に晒されても変わらないもの、一輪のアヤメの美しさや儚い季節の移ろいなどを、垣間見せてくれます。
富嶽三十六景の屏風前で、アートチーム「KIRIE」によるパフォーマンスが行われた
富嶽三十六景の大屏風の前で行われた、圧巻のパフォーマンス。空間全体が一つの作品のための空間となり、ダンサーのしなやかな動きと管弦楽器の演奏が一体となって、どこか彼岸の幽玄さを感じる濃密なひとときが演出されました。
アートチーム「KIRIE」によるパフォーマンス
ダンサーの頭上にある展示は、木材と絹糸による表現で、浮世絵の本質についての考察がテーマです。一つの要素では完成しない浮世絵、要素を集めただけでも完成しない浮世絵。有名絵師たちの名前の漢字がバラバラになり、普段意識しない構成要素のパーツ一つ一つの形が浮き彫りになった姿は、独特の静けさを持っていました。
現在も脈々と受け継がれる職人の技
摺りの実演では、集まった人々の質問に答えながら、摺師が版に色を付けていき、その様子は江戸の町角を再現したような賑わいでした。現代の職人である摺師の実演は大好評で、無造作に重ねられた版木や、幾枚も版を重ねる多色刷りの工程を目の当たりにし、来場者からは感嘆の声が上がっていました。
浮世絵の洗練されたスタイリッシュな一面と、時代によって変わることの無い普遍性が浮かび上がった本展示。加えて、様々な分野のアーティストたちが見事なバランスで作り上げた空間が、個々の来場者たちの体験によって生きたものとなり、いろいろな輪郭がぼやけていく中新たな感性の創造がなされる場を見るような展示となりました。