ステンドグラスというと、色の付いたガラスを鉛でつなぎ合わせて模様を作るタイプを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
「細かなガラスを鉛でつなげていく作品は、『ガラスアート』に近いです」
そう話すのは、株式会社マルヨシの代表取締役社長、水野雅之さんです。ステンドグラスとは「焼き絵付けされたガラス」という意味で、前出の鉛でつなぎ合わせるタイプは、正確には「ステンドグラスっぽいガラスアート」なのだと言います。
同社の創業は江戸時代。常滑市で製陶業としてスタートし、以降、技術を生かしながらペーパーマッシュ、陶製のひな人形、蒔絵などを手掛け、ステンドグラス制作に着手します。
「蒔絵は物品に塗装を重ねていく作業で、ひな人形の頭は、眉毛もまつ毛も全て筆で書いています。細かいものを作るという下地があったんですね。ステンドグラスは、これまでの製造プロセスや繊細な技術を掛け合わせたようなプロダクトでした」
全て手描きだというステンドグラスの絵付けの作業。実際はどういう内容なのでしょうか。
「まずガラスに、細かい線を描くのに適した『面相筆』で緻密な線を描き、600度で焼成して定着させます。その後、色ガラスの細かい粉を練ってガラスの表面に塗り、焼成します。これが『焼き絵付け』です。色によって焼成温度が違うため、色の数だけ焼成を繰り返す必要があります。温度を少しでも間違えると透明度を失ってしまったり変色してしまったりするうえ、ガラスは焼成を繰り返すと温度が下がる際に割れやすくなる性質があります」
色の多い作品ほど、やり直しや破損と隣り合わせの作業。同社では、職人たちの試行錯誤の末に、通常の3倍ほども色を重ねられようになったとか。すべての工程をクリアしたステンドグラスは、名画がそのまま光を放っているようです。
【こちらも読まれています】 花村えい子作品「全部飾りたい!」アートフェアから初のパリ個展へ
楊洲周延「舞踏会 上野桜花観遊之図」。色彩が多く、グラデーションの表現も美しい
完成までには国内外の複数の指導者の関与があり、その中心をステンドグラス作家の鶴身美友氏が担っていたらしい、と水野さん。
実は、同社がステンドグラスを制作していたのは2003~2012年の間で、取り組んでいたのは他界した先代社長。なぜ焼成を繰り返しても割れないのか、なぜ色が定着するのか、といった技術的なことは伝承されていないため、再現は不可能なのだそうです。名づけられたブランド名「Maruyoshi Stained Glass Works」の作品は、現存する約1100点のみということになります。
ステンドグラスを手掛けていたころの実際の制作の様子
「Maruyoshi Stained Glass Works」は、特に浮世絵を再現した作品群が印象的です。
「浮世絵が広まった当時の絵は、劣化を防ぐべく、人目にも光にも当てず暗闇にしまわれています。ステンドグラスは100年も200年も耐えるので常に飾れますし、他のステンドグラスと組み合わせて大きな絵として楽しむこともできます」
確かに教会の窓には、雨ざらしのまま長い期間を経ても変わらない美しさのステンドグラスが入っていて、芸術であり建材でもあるという強みが生かされています。
「やはり太陽の自然な光が当たると美しさが際立ちます」
繊細な色が煌めく様子は、幻想的です。
上村松園「新蛍」。簾そのものの緻密さだけでなく、そこから透けて見える体や着物、柄など、非常に緻密な仕事が見てとれる
マルヨシは今年10月にパリで行われる「Art Shopping Paris 2024秋」に出展する予定で、そのきっかけとお気持ちを聞きました。
「浮世絵は海外での人気が高く、なかでもヨーロッパ市場が圧倒的です。原画の所在も日本より海外のほうが多いと言われているほどです」
日本発信のステンドグラスに、パリの人たちがどのような反応をするか気になるところ。
「ルーヴル美術館に直結している会場も集客力も素晴らしいと思います。人々の目に触れないとリアルな反応がわかりませんし、とにかくやってみないと何も始まらない。どう評価されるのかを知りたいです」
ジャパンプロモーションでは、海外進出の一翼を担っています。ご興味をお持ちの方は、ぜひ一度ご相談ください。