3月30日(金)目白スタジオで書と茶道体験を行った一行
3月15日(木)~31日(土)の日程で、UAE(アラブ首長国連邦)アブダビの不動産・都市開発・投資会社Aldar Properties PJSC社の協賛で、日本のパブリックアートの調査・研究のために来日していたUAE(アラブ首長国連邦)のアーティスト一行。ジャパンプロモーションがコーディネート業務を担当したツアーの模様をお伝えします。
3月16日(金)~19日(月)にかけて、本郷の「トーキョーアーツアンドスペース本郷(TOKAS Hongo)」や「公益財団法人日本交通文化協会」を訪れ、東京研修を終えた一行は、23日(金)に広島へ移動。「平和の鐘」「原爆の子の像」などのモニュメントを巡り、パブリックアートが担う社会的な役割や、そこに込められた“思い”について考えました。
中東では、ヒロシマ・ナガサキ原爆投下については、学校の歴史の授業でしっかりと教えられており、訪日アラブ人の多くは旅程に広島を組み込みます。実物を目の前に、原爆の子の像の周辺に寄贈されたたくさんの折り鶴の意味や、そのゆえんに対し、深い共感が示されました。
24日(土)、今回の視察旅行のハイライトとも呼べる直島へ到着した一行は、地中美術館や李禹煥美術館、野外作品などを見学した後、ベネッセハウスで直島文化村の取締役である笠原良二氏を取材しました。
直島文化村の笠原氏とパブリックアートについてディスカッションを行った
空間と調和するアートとはどのようなものか、また島のパブリックアートの選定基準はどうして決まったのかなどについてディスカッションを重ね、アブダビのパブリックアート開発事業のディレクターを務めるシェイハ氏は、古い空き家をリノベーションしてアート作品として展示した「家プロジェクト」に強く興味を持ち、直島で自分たちがプロデュースした家プロジェクトをぜひ実現したいと語りました。
翌日、25日(日)はフェリーで豊島へ渡り、レンタサイクルで島内に点在する野外アート作品を見て周りました。豊島の展示は野外に展示される作品の保存状態や景観とアートの調和に関するサンプルとして、大変参考になったとキュレーターのムニーラ氏。UAEにはない瀬戸内海の穏やかな気候と、棚田やレモン畑など豊島ならではの景観も体験しました。
直島を周り、野外展示作品の保存や景観との調和を視察
さまざまな種類の桜が植えてある平野神社の鳥居前で記念撮影
26日(月)、京都へ移動した一行は、金閣寺、嵯峨嵐山の竹林の小径、都を代表する桜の名所とされる「平野神社」などを終日観光。27日(火)は、宇治在住の箔工芸家・近藤富士金氏の自宅を訪問し、工房見学と金箔の貼付け体験をしました。アーティストでもあるメンバーから、日本の伝統職人と交流したいというリクエストにより実現したこの箔工芸体験。薄い金箔を美しく貼る技術力の高さに、一同はいたく感動していました。
表面に漆が塗られた和紙の上に、極薄の純金箔を慎重に置くマリアム氏
28日(火)は北陸新幹線に乗って金沢へ。百万石・前田家の庭園で国の特別名勝として名高い兼六園と、“まちに開かれた公園のような美術館”をコンセプトに掲げて造られた、金沢21世紀美術館を訪れました。
金沢21世紀美術館では、広報室長の落合博晃氏から館のコンセプトや建築、展示作品について解説を受けた後、施設内を見学しました。金沢21世紀美術館は、レアンドロ・エルリッヒの『スイミング・プール』やパトリック・ブランの『緑の橋』など、館の施設の一部となり、その場所にあった形で委託制作されたアート作品(コミッションワーク)を多数展示しているため、視察メンバーからは作品の施工法についてなど具体的な質問が多く寄せられました。
託児サービスもあるキッズスペースを見学する一行
30日(金)は再び東京へ戻り、世田谷にあるアニメーションスタジオ「コロリド」を訪問し、アニメーション制作の現場を見学しました。中東では、70年代後半から日本のアニメーションがテレビで放映されていて、古くは『UFOロボグレンダイザー』や『キャプテン翼』、『NARUTO』『ワンピース』『進撃の巨人』といったアニメがテレビやネット配信サービスで視聴できるため、漫画やアニメは馴染み深く、アブダビ視察団のメンバー全員が熱心なアニメファンなのだとか。UAEにはアニメーションスタジオがあまりなく、今回の視察で制作現場を見られるなんて貴重な機会だと、目を輝かせながら、アニメ制作のノウハウや苦労話に耳を傾けていました。
デジタルと人の手を組み合わせながらアニメーションを完成させていく工程を熱心に見つめる一行
スタジオコロリドの前で記念撮影
白田路明氏が演奏する『じょんがら節』をバックに美帆氏が書を披露。圧巻のパフォーマンスに一同は魅了された
つづいて、目白のアートスタジオにて、書道家・美帆氏と津軽三味線奏者・白田路明氏による書道パフォーマンスを鑑賞し、書道体験の後、茶道家・盛清康彦氏によるおもてなしを受けました。中東にはアラビア書道の伝統がありますが、一般の人々にとっては遠い存在になりつつあります。一行は美帆氏による“書は心を表すもの“という日本の書道についての説明の後、ワークショップで実際に自分の気持ちを書で表現してみたり、美帆氏の「桜の季節に日本を訪れた一行の思い出が桜とともにあるように、また、彼女たちの未来が花開くように」との想いを込めた揮毫を見学し、日本の書道文化に触れました。初めて聴いた津軽三味線の音やリズムも衝撃的で、メンバー達は、その調べに聴き惚れていました。
日本の伝統文化に触れることも今回の視察旅行の目的の一つだったので、この夕べは一行にとって忘れがたい体験となりました。
美帆氏の指導のもと、書道を初体験
抹茶と繊細な和菓子のおもてなしも体験
夕方からは、Chim↑Pom(チンポム/卯城竜太・林靖高・エリイ・岡田将孝・稲岡求・水野俊紀)を訪ねて、彼らのスタジオのある高円寺へ。Chim↑Pomは、渋谷駅構内に展示されている岡本太郎の壁画『明日の神話』に福島第一原発の爆発の絵を付け加えたパフォーマンスで一躍有名になったアーティスト集団です。常にアクチュアルなテーマを扱い、時には物議を醸し出すこともある彼らですが、アジアの現代美術の新進アーティスト大賞に輝くなど、国際的にとても高く評価されています。
今回のスタジオ訪問では、リーダーの卯城竜太氏が映像を交えて作品制作の背景やChim↑Pomのパフォーマンスが社会性を帯びる理由や公共の場で数々の展示を行ってきた意義など、さまざまなことについて語り、自分たちも集団でアーティスト活動をしていくことを目標とする視察団メンバーは大きな刺激を受けた模様。アーティスト本人から直接話しを聞くことができ、とても貴重な交流の機会となったとシェイハ氏は嬉しそうに語りました。面談後はエリイ氏を交えて食事に赴き、さらに交流を深めました。
Chim↑Pomの作品や活動について映像を交えて説明する卯城氏
独創的な設計のスタジオ内を見学する一行
Chim↑Pomのメンバー達と一緒に記念撮影
現在のアブダビ市街。この先鋭都市に、どのようなパブリックアートが建ち並ぶのか必見です
17日間に渡り、日本国内のさまざまなアートスポットを訪れ、伝統文化に触れ、自然を満喫したアブダビ視察団。帰国後は日本での研究成果を発表し、今年中には作品として形にすることが決まっています。
本年2018年度、UAE建国の父シェイク・ザイードの生誕100周年を記念する、事業の一つであるアブダビでのパブリックアートの制作事業に、今回の日本視察・調査の成果がどのように生かされるのか、彼女らの母国の大きな期待が寄せられています。
今後の進展も、当サイトでお伝えしていきます。
※ 2019年5月更新情報! ※
観光庁の公式サイトに、2018年度のレガシー効果事例集が公開されました。
当取り組みについては、30ページ「香川県における企業会議」に掲載されています。
下記リンクよりご参照ください。
>>国土交通省観光庁「MICEによるレガシー効果等調査事業」 2018年度版PDF